あるいは、こんなことを感じていませんか

採用と組織づくりに関わる人なら、避けては通れない経験があります。スキルチェックも面接も問題なく通った人が、入社して半年で「合わない」と言って辞めていく。理念を語っても空気が動かない。「カルチャーフィット」と言うわりに、その基準は誰も言語化できていない——。これらは個別の問題に見えて、実は同じ一つの構造を抱えています。

VFMは、その構造に座標を与える地図です。本ページでは、採用と組織づくりでよく見られる3つの違和感を起点に、VFMをどう組織開発に使うかを紐解きます。

・採用してもすぐ辞める。なのに、何が悪いのか分からない。

スキルは合っていた。経歴も問題なかった。面接の印象も良かった。それでも数ヶ月で「合わない」と言って辞めていく。採用基準を厳しくしても、定着率は変わらない。「最近の若い人は……」と言いたくなるが、それで片付けられないことは自分が一番よく分かっている。

・主体性を求めても、誰も動かない。

「主体的に動いてほしい」と何度伝えても、現場は指示待ちのまま。最初は個人の能力の問題だと思っていた。でも何人入れ替えても、しばらくすると同じ空気に飲み込まれていく。組織全体が、見えない重力で下に引かれている感覚がある。

・カルチャーフィットの基準を、自分でも言語化できない。

「うちのカルチャーに合う人」と曖昧に言ってきたが、自分でもその基準を言語化できていない。結果、なんとなくの直感で採用してしまい、後で齟齬が出る。面接官によって判断もバラバラで、再現性がない。「合う・合わない」の正体を、誰も掴めていない。

翻訳

これらはすべて、ステージのミスマッチから起きています

採用と組織の悩みは、個人の能力や態度の問題に見えて、その根は組織内の感情座標の分布——つまりステージのミスマッチであることが多くあります。VFM(Values Foundation Matrix)は、富軸(リソース)と明軸(自分の人生を生きているかどうかという内的実存)の2軸でその座標を可視化する地図です。3つの違和感を、VFMの言葉で読み替えてみます。

Symptom

・採用してもすぐ辞める。

VFM Reading

スキル・経歴という富軸の指標だけで採用し、明軸(感情座標)の相性を見ていない。候補者と組織のステージが大きく離れていれば、たとえスキルが合っていても、感情の語彙が違うため対話が成立しません。これは適性ではなく、地図の問題です。

Symptom

・主体性を求めても、誰も動かない。

VFM Reading

経営者がS13にいる時、「主体性」はS13の意味で発信されます。しかし組織の重心がS3にあれば、その言葉は受信されないか、別の意味で受け取られます。個人の能力の問題ではなく、組織のステージ分布と翻訳設計の問題です。

Symptom

・カルチャーフィットの基準を言語化できない。

VFM Reading

カルチャーフィットの正体は、感情座標の近さです。組織の中心ステージと候補者のステージが近ければ自然と「合う」。これを言語化するには、まず組織自体のステージマッピングが先に必要です。地図がない場所では、フィットを測る座標もありません。

3つの違和感の共通構造

「すぐ辞める」「主体性が出ない」「カルチャーフィットが言語化できない」——これら3つは別々の問題に見えて、すべて組織内のステージ分布が見えていないという同じ一つの構造から生まれています。組織を地図化することが、すべての出発点です。

活用

採用と組織開発の現場で、こう使う

VFMは抽象的な理論にとどまりません。組織のステージマッピング、面接設計、オンボーディング、組織の長期ビジョン——それぞれの現場で、具体的な使い方があります。

A. 組織のステージマッピングをする

経営者・幹部・現場の中心ステージを、まず把握する。多くの組織では、経営者と現場の間に大きなステージ差があります。そのズレが、組織の対話の難しさの正体です。地図がなければ、対策は立てられません。

For Example役員・管理職・現場リーダーそれぞれにVFM診断を実施し、組織全体のステージ分布図を作成する。経営層と現場の重心を可視化することから始める。

B. 面接で、候補者のステージを推定する

スキルや経歴を聞く質問ではなく、候補者の感情の座標が見える質問を入れる。答えに含まれる感情の語彙、価値判断の傾向、何を「成功」と呼ぶかから、ステージは読み取れます。直感ではなく、座標で判断できるようになります。

For Example「これまでで最も気持ちが動いた仕事の場面」「報酬以外で続けられた仕事の理由」「辞めた理由」を聞く。事実ではなく感情の語彙が答えに現れる質問を選ぶ。

C. オンボーディングを「ステージ翻訳」として設計する

新人と組織の中心ステージにギャップがある時、自然にフィットすることを期待しても起きません。両者の感情の語彙を翻訳する装置——ステージの橋渡しをする教育担当の配置や、対話の場の設計——が必要です。

For Example新人のステージを推定し、組織の中心ステージとのギャップを把握する。そのギャップを埋める「翻訳者」役のメンターを配置し、定期的な対話の場をつくる。

D. 組織の「夢の座標」を全員で共有する

組織が3年後にどのステージにいたいか——「夢の座標」を可視化し、全員で共有する。理念が空回りするのは、それが言葉だけで、座標として共有されていないからです。座標が見えれば、移行の旅路を全員で歩ける形になります。

For Example経営合宿の冒頭で、現在の組織のVFM座標と3年後の目標座標を全員で描く。数字の目標より先に、感情の方角を共有することが、組織の動きを変えます。

採用は、人を選ぶ作業ではなく、感情の地図の上で正しい位置に正しい人を置く作業である。地図がないまま採用を続けても、人は減り続ける。

事例

同じ座標を通った組織がいます

組織づくりに関わる方に特に参考になる2社を、組織のステージ設計として読んでみてください。どちらも、創業者の感情座標を組織全体のカルチャーへと翻訳することに成功した例です。

S9 ⟶ S11 ⟶ S12

一風堂

職人の組織を、世界規模に拡張するカルチャー設計。

福岡の一店舗が、なぜ世界15カ国に展開しても「らしさ」を失わなかったのか。それは創業者・河原成美氏の感情座標を、各店舗のリーダーに「翻訳」する仕組みを丁寧に作ってきたからです。中小規模からスケールする組織にとって、最も学びの多いケース。

S12 創造的ミニマリスト

ミナ ペルホネン

100年続く組織を目指す、長期視点のカルチャー設計。

皆川明氏が「100年続くブランド」を構想する時、語られているのは商品ではなく組織の感情座標の継承です。短期の成果ではなく、長期に渡って同じ座標を保ち続ける組織は、どう設計されているのか。採用の慎重さ、社員の長い在籍、内製の徹底——すべてが座標の保存装置として機能しています。

事例から学ぶ

長く続く組織は、例外なく「感情座標の継承装置」を持っています。それは規則や評価制度の話ではなく、創業者のステージを次世代に翻訳する仕組みの話です。一風堂もミナ ペルホネンも、その翻訳装置を意識的に設計してきたから、創業者のテイストが組織の隅々まで届き続けています。