序
あるいは、こんなことを感じていませんか
新規事業や商品開発に関わる人なら、一度は通る違和感があります。アイデアは出る。市場性も悪くない。企画書も通った。でも、実装段階に入ると、なぜか足が止まる。それは、確信が持てないから。「もう一度練り直そう」を繰り返しながら、リリースが遠のいていく——。これは熱意の問題でも、実行力の問題でもありません。
VFMは、確信を持ち進むための座標を与える地図です。本ページでは、新規事業・商品開発でよく見られる3つの違和感を起点に、VFMをどう0→1のフェーズに使うかを紐解きます。
・アイデアは出るのに、実行段階で止まる。
ブレストでは盛り上がる。企画書も通る。でも、いざ実装に入ろうとすると、なぜか手が動かない。「もう少し練ろう」「市場調査をしよう」という言葉で時間が流れていく。気づけば3ヶ月、半年。アイデアは色褪せ、競合が先に出してしまう。何かがずっと噛み合っていない。
・ターゲット顧客像が、曖昧なまま進んでしまう。
「30〜40代の女性」「都市部のビジネスパーソン」など、属性レベルでは決まっている。でも、その人がどんな感情で何を求めているのか、どんな日常を生きているのかが見えない。結果、誰にでも刺さる、つまり誰にも刺さらない中途半端な商品ができあがってしまう。
・既存事業のキャッシュフローが、新規事業の判断を曇らせる。
既存事業の利益で新規事業をやっている。「失敗できない」という暗黙のプレッシャーで、判断が保守的になる。気づけば、既存事業の延長線上の発想しか出てこない。「新規」と名乗りながら、本当に新しいものは生まれない。経営層の期待値も、現場の動きも、すべてがチグハグになっていく。
翻訳
これらは、明軸からの発想が抜けているから起きています
新規事業の悩みは、市場性や実行力の問題に見えて、その根は明軸(自社の感情座標)からの発想が抜けていることから生まれることが多くあります。VFM(Values Foundation Matrix)は、富軸(リソース)と明軸(自分の人生を生きているかどうかという内的実存)の2軸でその座標を可視化する地図です。3つの違和感を、VFMの言葉で読み替えてみます。
・アイデアは出るのに、実行段階で止まる。
アイデアが富軸(市場性・収益性)から発想され、明軸(自社のテイスト・感情座標)から発していない。だから実装段階で「自分のやりたいことではない」という違和感が出て、足が止まります。これは怠惰ではなく、感情座標との整合性が欠けているサインです。
・ターゲット顧客像が曖昧。
属性で定義しても、感情座標が見えません。S5の30代女性とS12の30代女性では、欲しいものも、刺さるコピーも、価格帯もすべて違います。VFMのステージで顧客を定義することで、商品の輪郭が立体的に立ち上がります。
・既存事業のキャッシュフローが判断を曇らせる。
既存事業のステージから新規事業を発想すると、既存事業の延長にしかなりません。新規事業は本来、自社の「次の座標」を実験する場です。座標を変える勇気こそが、新規事業の核心です。
0→1フェーズで重要なのは、選別より共鳴
新規事業や商品開発の0→1フェーズで、多くの会社は「市場の選別」から始めます。市場規模、競合分析、収益試算——これらはすべて富軸の議論です。しかし、0→1で本当に必要なのは共鳴の蓄積です。自社のテイストに共鳴する最初の共犯者がいなければ、どんなに優れたアイデアも前に進みません。共犯者の存在が、創業期の感情モメンタムを支えます。
活用
0→1の現場で、こう使う
VFMは抽象的な理論にとどまりません。アイデアの発想、ターゲット定義、実験区の設計、初期共犯者の集め方——それぞれの現場で、具体的な使い方があります。
A. アイデアを「明軸」から発想し直す
市場性ではなく、自社のテイストから始まる発想に切り替える。「なぜ我々がこれをやるのか」を1段落で書けるアイデアだけを残す。書けないアイデアは、たとえ市場性があっても、実装段階で必ず止まります。
For Example新規事業の候補リストの横に「なぜ我々がやるのか」欄を追加する。1段落で書けないアイデアは、富軸からの発想として一旦保留し、明軸からの再発想を試みる。
B. ターゲットを「ステージ」で定義する
属性ではなく、感情座標で顧客を定義する。その人がどのステージにいて、何に消耗し、何を求めているかを描く。属性レベルの定義は富軸だけ。ステージ定義は富軸×明軸の両方を含むため、立体的になります。
For Exampleターゲットペルソナを書く時、属性(年齢・職業・年収)の項目に加えて「現在のステージ」「目指したいステージ」「ステージ移行の障壁」の3項目を必ず入れる。
C. 既存事業の座標から離れる「実験区」を作る
新規事業を、既存事業の延長線で評価しない。別の感情座標を試す実験区として位置付け、既存事業とは別のKPI、別の意思決定基準で運営する。これがないと、新規事業は既存事業の重力に引き戻されます。
For Example新規事業の評価指標を、既存事業の財務指標から分離する。最初の1年は「共犯者の数」「明軸への移動度」などの座標移動指標を主軸に置く。
D. 0→1の「初期共犯者」を構想段階から集める
完成品を待ってからユーザーに見せるのではなく、構想段階から共犯者を巻き込む。10人の深い共鳴者がいれば、新規事業は前に進みます。1万人のフォロワーより、10人の共犯者のほうが、創業期の感情モメンタムを支えます。
For Example事業構想書をプレゼンする最初の10人を、属性ではなく感情座標で選ぶ。自社のテイストに共鳴しそうな人を、業界・年齢を問わず指名する。彼らの反応がプロダクト設計に直接影響する仕組みを作る。
0→1のフェーズで必要なのは、市場の選別ではなく、共鳴の蓄積である。最初の共犯者がいなければ、どんなに優れたアイデアも前に進まない。
事例
「次の座標」を実験した企業がいます
新規事業・商品開発に関わる方に特に参考になる2社を、ステージ移動の物語として読んでみてください。どちらも、既存業界の延長ではなく、明軸から新しいカテゴリーを生み出した例です。
カテゴリー創出としてのiPhone
Apple
既存市場の延長ではなく、感情座標を変える商品。
2007年のiPhone登場時、既存の携帯電話業界は「機能数」「価格」という富軸で競争していました。Appleが投入したのは、富軸の改良ではなく、明軸の全く新しい体験。「電話・音楽・インターネットを一つの装置で」という発想は、市場分析からは出てきません。自社のテイストから始まった発想だけが、カテゴリーを創出できます。
既存業界での新規参入
一風堂
レッドオーシャンに、明軸で新しい場所を作る。
創業時の博多ラーメン業界は完全なレッドオーシャンでした。一風堂は富軸(味・価格・出店スピード)で勝とうとしたのではなく、「ラーメン店を一つの感情体験の場として設計する」という明軸の発想で参入しました。既存業界の常識から離れる勇気が、新規参入を成功させた例です。
事例から学ぶ
新しいカテゴリーを生み出す企業も、既存業界に新規参入する企業も、共通して持っているのは「明軸からの発想」です。市場分析だけでは、既存業界の延長しか生まれません。新規事業の核心は、市場ではなく、自社の感情座標から「次の座標」を構想することです。AppleもIPPUDOも、そこから始まりました。